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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

と幾たびも囁いたときのあの親しみや好意は、いまの彼女からは微塵も感じることができなかった。けれどもほかに当てはない。幹太郎は彼女に頼んだ。

秋田平八に預けた物がある。それを取って来るまでこの二人を置いてもらいたい。夕方までには必ず戻るから、と幹太郎は云った。お杉はしぶった。お豊や幸坊をちらちらと見やりながら「困りましたね」と眉をしかめ、今日は日本橋のほうの旦那がたの寄合があるので、どの座敷も塞がっている、平手さんのことだからなんとか都合したいが、今日だけはぐあいが悪いのだとお杉は云った。

――これが人情というものか。

幹太郎は「出ちまえ」と思った。

だがお豊は狙われている。また三平たちにみつかっては面倒だ。そう気がつき、恥ずかしさを忍んで頼んだ。

座敷でなくてもいい、蒲団部屋でもなんでも、ただ半日だけ置いてくれればいい、食事もみんなと同じもので結構だし決して迷惑はかけない、と幹太郎は云った。お杉はようやく承知した。さすがに、それでもだめだとは断われなかったのであろう、「では汚ない部屋でよければ」と頷いた。

「では頼んだからね」幹太郎は、ほっとして、お豊に云った、「私は日の昏れるまえに戻る、長は裏へいって、足を洗ってからあがるんだ、おとなしくするんだぞ、いいか」