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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

彼はそうなった理由を語りながら、彼女から与えられる印象に感動し、一種の幸福感に包まれるように思った。

「兄もよく秋田さまのことを手紙に書いてくれました」と、かやが柔らかい声で云った。そして「ですから」とちょっと云いよどんだが、すぐにまた、平八を見ながら続けた。

「ですから、秋田さまのことは詳しく存じていましたし、おめにかかったとき、やっぱり想像したとおりの方だったので、ちょっとびっくり致しましたけれど、でも……おみ足のことは、兄がいちども書いてくれませんので、わたくし少しも存じませんでした」

「私のことをそんなに書いたんですか」と、平八もかやを見た。

かやは「はい」と云って、ふと頬を染めた。平八は自分の動悸が高くなるのを感じた。かやは戸惑いしたように「どちらへまいるのですか」と、話を変えた。

神田にこころやすい家がある、そこで待っていて下さい、と平八が云った。

駕籠で、旅籠町の『山源』へゆき、そこへかやを預けてから、平八はまた駕籠をひろって品川へ向った。

「ふしぎだ、ふしぎな気持だ」と、彼は駕籠の中で呟いた、「こんな気持は初めてだ」

平八は眼をつむった。