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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

などと云うのが聞えた。

幹太郎は侍たちの一人になにか断わり、「お小屋にいるから」と云って、平八に頷き、門のほうへ歩きだした。

門をはいってすぐ右にゆき、生垣についてまわると、材木を置く木小屋があり、そのさきに、車井戸を挾んで小さな家士住宅が並んでいた。幹太郎はその一軒に平八を案内し、まず「ちょっと汗をながして来る」と、着物を持って厨へいった。

「いまの騒ぎはなんだ」

部屋の中を見まわしながら、平八が訊いた。幹太郎は厨から「わけはよく知らないが、刃傷沙汰だ」と答えた。いまの侍が同僚を一人斬り、これは即死らしいが、止めにはいった二人に傷を負わせた。なんとかしてくれ、と道場へ知らせに来たので出ていったんだ。しかし、と平八が云った、「かなり腕の立つ男らしかったな」うん、と、幹太郎が云った。

「菱川なにがしといって、この下屋敷では第一のつかい手なんだ」

そうらしいな、あの塀へ追い詰められたときは、見ていてどきっとしたよ。うん、相当なもんだ、と幹太郎が云った。

「少しまえに本邸から移って来た男で、本邸では千葉周作に仕込まれたそうだがね、おかげで北辰一刀流の手を見たように思う」