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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

「それはそうね」

「もちろん、倹約してのはなしだがね」

「それはそうよ」と、お豊は立ちあがった、「とにかくお祝いに一杯飲みましょう、いそいでなにか、みつくろって来るわ」

「私は、いいんだぜ」

自分は済ませて来た、と云おうとしたが、お豊は聞きながしにし、「お勝手が汚れているから見ないでね」と云って出ていった。

「――まあいいさ」と、幹太郎は独り言を云った。

二十五両が一と月分でなく、一年分だと聞いたときの(お豊の)あからさまにがっかりした顔が、幹太郎にかなしい失望を与えた。それはたいした報酬ではないかもしれない。特に故郷の家へ補助しなければならないのだから、にわかに生活が楽になるわけではない。

――だが、せめて正師範にあげられたことだけでも、よろこんでもらいたかった。

正直にいって、それが幹太郎を失望させたし、不満でもあり、かなしかった。

「まあいいさ、お豊は育ちが違うんだ、お豊のように暮して来た者に、金がなにより頼りだということはやむを得ないかもしれない」

彼はそう呟いて、自分をなだめた。

お豊が出てゆくと、すぐに、幸坊が帰って来た。幹太郎は(『山源』での)ほんのひと口の酒が、まだきいているとみえ、体がだるいし喉が渇いていた。