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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

「夜遊びをしてはだめだな」と、幹太郎は幸坊に云った。

幸坊は「うん」と頷いたが、悪かったという顔ではなく、なにかもの云いたげな眼つきだった。

「寺小屋へは、きちんとかよっているか」

「うん、いってるよ」

「清書があったら見せてくれ」

幸坊は聞えないふりをして「平手さんのおじさん」と話をそらし、増上寺の山内の欅へ登って、雀の卵を取ったことや、金杉橋の下流で魚がよく釣れることなどを、能弁に語りだした。まあ待てよ、と幹太郎は遮った。まあちょっと待て、おれはまだいちども聞かなかったが、おまえ、どこで生れたんだ。親やきょうだいはどうしたんだ、と幹太郎は訊いた。

「知らねえよ」

と幸坊はそっぽを向いた。

「知らないって――自分の生れた処も、親きょうだいのことも知らないのか」

幸坊は「ああ」と云った。

「でたらめでよければ云えるけれど、平手さんのおじさんに嘘はつけねえから――」

幹太郎はじっと幸坊を見た。

――本当なんだな。

大きな火事や洪水があれば、親きょうだいに死なれ、親類の所在もわからないような孤児の出ることがずいぶんある。これらの多くは『ところ預け』となって、町内の負担で養育されるのだが、うまく成長する例は稀で、浮浪者、乞食などにおちるのが大部分のようであった。