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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

「二人は広いほうで寝てくれ、おれは一人だから四畳半でいい」と、幹太郎は云った。

お豊は幸坊が四畳半で、自分と幹太郎が六畳に寝るのだと云い、幸坊を蒲団屋へ走らせた。お豊はすっかり酔って、幹太郎にからみつき、ところ構わず吸いつこうとしたり、袖や衿から手を入れて、彼の肌に触ろうとしたりした。

「よせ、おれは酔って気持が悪いんだ」

幹太郎はお豊を押しのけた。

「うるさくすると帰るぞ」

「あらいやだ、あたしなんにもしやしないじゃないの、なにをそんなに怒るの」

「おれは気持が悪いんだ」

「だから、介抱してあげるんじゃないの、そんなに邪慳にするもんじゃなくってよ」

お豊はまたからみつこうとし、幹太郎は立ちあがった。お豊は体をふらふらさせながら、充血した眼で彼を見あげた。

「怒ったの、平手さん」

「頼むから構わないでくれ」

「薄情ねえ、いいわよ」

お豊は横坐りになり、片手を畳に突いて、ぐらっと頭を垂れた。

髷の根がゆるんで揺れ、釵がばたっと落ちた。

「苦しいんじゃないのか」と、幹太郎が訊いた、「水をやろうか」

「苦しいわ……でも酔ったから苦しいんじゃない、酒に酔ったくらいで、苦しくなんかなりゃあしないわ、でもあんたにはわからないわね、平手さんには」