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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

幹太郎は行灯を暗くし、幸坊が寝るのを待って四畳半へゆき、唐紙を閉めた。

お豊が寝てしまったので、寝衣にするものが出せない。彼は肌着だけになり、着物や袴を片づけてから、横になった。――疲れと酔いとですぐ眠れたらしい、深い眠りのなかで、誰かに押えつけられ、苦しくなって眼をさますと、夢ではなくて、本当に誰かがしっかりと抱きついていた。

「抱いて、ねえ、抱いて平手さん」と、お豊が囁いた。

あらあらしく熱い呼吸と囁きを聞いて、幹太郎は強引に起き直った。お豊は彼にとびつき、両手でつかみかかって、彼を押し倒そうとした。幹太郎は、「よせ」と云いながら、お豊の腕を逆に取り、ひき伏せて、上からぐっと押えつけた。

「いや、いやいや、放して」

お豊は狂気のように暴れた。

「よく聞いてくれ、お豊」と、幹太郎は、押えつけたまま、云った、「初めによく云ったろう、おれはまだこれから修行しなければならない人間だ、おれには野心があるし、おまえにだって将来がある、おまえもこれから女ひととおりの芸事作法を身につけて、良い縁があったら結婚しなければならない、そうだろう」

お豊は嗚咽し始めた。