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はなもかたなも
花も刀も
山本 周五郎
「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页
いや、おそらく一人は勝ち抜くだろうと信じている」
伊勢も上村も眩しそうに眼を伏せた。かれらには、確信がなかった。上村は三人のなかの年長者で二十三歳になり、総試合にも二回出ている。二十一歳の伊勢は一度、今年はじめて出るのは野口重四郎だけであった。そして、上村も伊勢も、中位までこぎつけるのが精いっぱいだったし、本邸や中屋敷の者で、ずばぬけた腕を持っている者が、少なくとも十人以上いることも知っていた。
「経験にこだわってはだめだ」と、幹太郎は云った、「経験からまなぶのはいいが、経験にとらわれてはいけない、上村は二度、伊勢は一度、それぞれ総試合の場を踏んでいる、しかし、いまの二人は去年までの二人ではない、特に私のくふうした切尖はずしの技は効果がある、あの呼吸をものにすれば、派手ではないが勝ち味は充分だ、そう思わないか、上村」
「そう思います。思いますが、しかし」
「しかしは、よけいだ」と、幹太郎は遮った、「勝負には勝つという確信が大切だ、互角の腕なら勝つという確信をもつ者に分がある、慢心はいけないが、自分を信ずる気力を失うことはみずから負けることだ、――あと僅かな日数だから、きついかもしれないが、奮発してくれ、たのむぞ」