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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

と、幹太郎が云った、「自分でもそんな気がしました、いけないぞと思ってひき緊めたんですが、打ち込んだときは眼が眩みそうでした」

「正直に云うとおれもあがったらしいよ」と、幹太郎は苦笑した。

なんのために来られたんでしょう、と稽古着の袖で汗を拭きながら、弥兵衛が訊いた。さあ、と幹太郎は口ごもった。総試合のための下検分でしょうか。どうだかな、それならそう通告がある筈だ。しかし、ほかに理由はないと思いますがね。うん、なにか噂が聞えたのかもしれませんよ。まあいい、気にするな、と幹太郎は云った。事前に見られたところで勝負に変りがあるわけじゃない。勝負を実力いっぱいにやればそれでいいんだ。

そう話していると、白川久三郎が引返して来た。

久三郎はひどく慌てたようすで、走って来たのだろう。荒い息をしながら、幹太郎のそばへ来るなり「野口が捉まった」と云った。千葉周作の話かと思ったので、幹太郎はちょっと訝しそうな眼をしたが、すぐにその言葉の意味を悟り、われ知らず立ちあがった。

「野口が、捉まったって」

「猿若町の芝居茶屋に隠れているところを踏みこまれ、女といっしょに捉まって、たったいま伴れ戻されたということです」