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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

「ばかな、なんという――」

幹太郎は思わず舌打ちをした。

――捉まれば切腹ものだ。

だからこそ、逃げのびてくれるようにと祈ったのに、芝居茶屋といえば、その婦人のゆきつけの店だろうし、女の浅智恵でそこを選んだのであろうが、そんな場所では「此処へ来い」と手招きをするようなものではないか。なんというばかなことを、と幹太郎は心のなかでどなった。

「部屋で待っていてくれ」

幹太郎は、白川にそう云った。

弥兵衛にあとを頼み、体を拭くためにまず井戸端へいった。

彼は久三郎と半刻の余も相談した。

その女が、下屋敷年寄の富原惣兵衛の後妻であること。年は二十五歳で、名はあさ、実家は日本橋通り二丁目にある海産物問屋、渡島屋八郎兵衛という、藩の御用商人であること、惣兵衛は七年まえに妻を亡くし、それから三年めにあさを娶ったこと。惣兵衛には前の妻にも、あさにも子がなく、もう五十四歳になるので、去年の十月に養子を迎えたこと、などを、幹太郎は初めて白川から聞いた。

「富原さんは、妻女をどうするだろう」と、幹太郎が訊いた。

「見当がつきませんね」と、久三郎は首を振った。

惣兵衛が三十も若い妻におぼれているのはたしかである。