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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

幹太郎は就任のとき顔は見たが、口をきくのはこれが初めてで、まず挨拶を述べてから、野口のことを話しだした。

惣兵衛は左右の手の、指の尖端を交互に揉みながら聞いていた。指の尖端をつまんで、静かに揉み、次つぎとそれを繰り返すのである。こちらの云うことを聞いているのかどうか、柔和そうな眼にも、その表情にも、平静な無関心さのほかには、なにもあらわれてはいなかった。

「そこもとは何歳になられるか」

幹太郎が話し終ると、惣兵衛はこちらを見ずにそう訊いた。幹太郎は自分の年を告げた。惣兵衛は「うん」と頷き、やはりそっぽを向いたままで、「妻女はおられるか」と訊いた。幹太郎はちょっと黙った。話がまったくそれてゆくので、どういう意味の質問か見当がつかなかったのである。

「妻はおりません」と、彼は答え、すぐに云い直した、「まだ私は独身です」

惣兵衛は「ほう」といい、揉んだ手指の先を眺めながら、

「金杉橋の近くに自宅があるようだな」と云った。

「はい、仮住居があります」

「そこにいる女は……そこもととどういう関係があるのか」

幹太郎はどきっとした。惣兵衛は初めてゆっくりと眼をあげて、こちらを見た。