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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

なにか、しくじったのではないか、と不安になった。

「あの女は貧しい生れで、親きょうだいもない不憫な育ちです」と、幹太郎は云った、「私は或る事情で、あの女に恩義があり、まじめな人間にたち直れるまで、面倒をみてやりたいと思っています」

「隠し売女をさせながらか」と、惣兵衛は反問した。

幹太郎は相手を見た。惣兵衛の云う意味がすぐにはわからなかったし、わかると同時に苦笑し、

「それはお豊のことですか」と云って首を振った。

「そこもとには可笑しいか」

「あんまりばかげています、もっとも野育ち同様で、することに遠慮がありませんから、なにか誤解されたかもしれませんが」

「では、自分で慥かめてみるがいいだろう」

「お望みなら慥かめます」

「私には、その必要はない、私のほうはもうわかっているので、慥かめるのは、そこもと自身のためだ」

惣兵衛の声は静かで、むしろ温情がこもっているといったふうだった。だが、幹太郎にはそれが冷酷な嘲笑のように聞えた。

「これから、でかけてもいいでしょうか」

「ゆくなら門鑑を出させよう」と、惣兵衛は云った。

「誰か証人を一人付けて下さいませんか」

「無用だろうね」