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さんごくし
三国志(七)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《三国志(七)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N1,點詞查義。
N1 · 挑戰 · 新字新假名 · 371,916 字 · 744 頁
六
これらの点も孔明の惨心を一しお深刻ならしめているものであった。
しかも彼は、蜀の大理想を不可能とはしない。玄徳の遺詔をむりだとはしなかった。出師の表一千余字、かりそめにも恨みがましい辞句などはない。ことばの裏にすらうかがわれないのである。
六
三軍の整備は成った。
この間、蜀宮中の内部にこそ、多少複雑な経過はあったが、国外に対しては、ほとんど、何の情報もまだ漏れずにあった程、それは迅速にひそかに行われた。
春三月、丙寅の日、いよいよ発向と令せられた。
「征ってまいります」
最後のお別れとして孔明が朝に上った日、後主劉禅は眼に涙をためて、
「相父。自愛に努めてよ」
と、ねんごろに云った。
劉禅の姿を仰いでいる時も、孔明の脳裡には、先帝玄徳の面影が常に描かれていた。劉禅のうしろにはいつもその人在りと意思していた。
「お案じ遊ばしますな。たとえ孔明が五年や十年留守にしておりましょうとも、陛下のお側には、かかる忠誠の人々が、豊かな才量をみな持って、内外の事をお扶けしておりますれば……」
孔明は奏しながら、玉座の左右へ眸を移した。実に、彼のただ一つの心配は、自身の向う征途にはなくて、後にのこす劉禅の輔佐と内治だけが心懸りだったのである。