Japanische Klassiker mit Furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lesen Sie 剣難女難 (けんなんじょなん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 243.807 Zeichen · 482 Bildschirme
武門の家に男と生れて甲斐のない新九郎の性質は、無論兄の重蔵が強く顰蹙するところであったから、今日までには幾百回の強意見が繰り返されたか知れない。しかし新九郎の天性は矯正されないどころか、絵や笛や庭いじりなどと、いよいよあらぬ方の趣味へばかりずんずん深くなって行くのであった。――所詮、弓矢の神に見放された、武門の不具者と、重蔵もこの頃は放任してあったのである。
こうして、春はいつも新九郎の部屋に長閑であった。今日も窓の側の朱机に寄って、うっとりと画想に我を忘れていた時、新九郎はふとことりと静かな庭下駄の音を耳に入れた。
「誰であろう――?」
と彼は何気なく窓から半身を見せて庭面を眺めた、と思いがけない人――天降ったかという疑いはこんな時にであろう、笄島田に春の陽を浴びて、瑠璃紺地に金糸の千草を染め浮かした振袖へ、唐錦の鉢の木帯を背高に結んだ目ざめるような姿が、すらりと立って此方にいた、新九郎と瞳を合わすと、にっこりと玉虫色の口紅を笑ませて細かい歯を見せた。
「おおあなたは――」
新九郎は思わず声をかけてしまってから真ッ赤になった。それはいつか如意輪寺の梅月夜に見た、あの血の池を見るような怖ろしさより忘れ得なかった印象の人であったから――