Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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けんなんじょなん

剣難女難

吉川 英治

Lesen Sie 剣難女難 (けんなんじょなん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 243.807 Zeichen · 482 Bildschirme

Aozora Bunko

二

――今は自分の愛慾もなく煩悩でもない旅なのである。

「オオ、思わぬことに暇どって、さっきの侍を見失ってしもうたが、いずれ立場へ行けば追いつかぬこともありますまい」

「ほんに、では千浪様、そろそろ参るとしましょうか」

笠を持ち直して急ぐ先に、間もなく、この木曾街道第一の難所、大妻籠の姿が孔雀石をもりあげたように聳えている。

二

先に立場へ着いた長髯の侍は、茶屋の葭簀も潜らずに、すぐ片手の鉄扇を上げて、馬子の溜りをさしまねいた。

と、吾れ勝ちに客を争う馬方が、手綱を振って五、六組も出て来たが、侍は中でも一番不馴れらしい馬方を指して、すぐ、鮮やかな身ごなしで鞍に乗った。

「まだ陽は高いゆえ、そう急いで参らなくともよい」

「へい、登りの二里さえ越してしまえば、後は夕月を見てからでも、楽に落合の宿へ入られます」

「ウン、山中の幽翠を、鞍に揺られながら、この炎日を忘れて行くのが楽しみじゃ」

「そりゃもう、女滝の裾あたりへ行くと、夏でも寒いくらいでございます。じゃ仕度はようがすか」

「おお、やってくれい」

ピシリと、手綱のこぶしで一鞭くれると、馬はやがて妻籠の緑蔭に隠れて行く。