Japanische Klassiker mit Furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lesen Sie 剣難女難 (けんなんじょなん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 243.807 Zeichen · 482 Bildschirme
九
「おのれ悪山伏めら、この新九郎が上達の暁には覚えておれよ……」
とすごすご塵を払って立ち上がった。既に夜に入っていたので、通る人目にこの醜態を見られなかったのは、せめてもの僥倖であった。
無念無念でかたまっていた新九郎は、どこをどう歩いて来たかしばらくは気づかなかったが、鼕々という水音にふと面を上げて見ると、ここは保津川の川縁、彼方の青巒から一面の名鏡ともみえる夏の月がさし上って、大河に銀波を縒っていた。
その涼しさに、新九郎も冷静になった。彼の嚢中は宿銭にも乏しかったので、今宵はここの河原蓬を衾にして夜を明かそうと心を決めた。そしてごろりと身を横たえながら、澄み渡る真如の月の冴えを見つめて、ただ想うのは剣の工夫、ああ如何にしたら名人になれるであろう。いつになったら鐘巻自斎を打ち込むことが出来るだろう。それを思えば大円房の如きは心にかけるほどのことでもない。むしろ武神が我れを鞭打つ激励ではないか。
新九郎はそう心をとり直して、月そのものの、清らかさに返った。夜は更けた。露ふりこぼす河原の青芒に、そよそよと吹く風も冷たい。するとそこへ、ざッと水を切って来た一艘の屋形船がある。