Japanische Klassiker mit Furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lesen Sie 剣難女難 (けんなんじょなん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 243.807 Zeichen · 482 Bildschirme
三
「もし、新九郎さま、新九郎さま!」
と、息弾ませて呼び立った。
「おう!」
と答えた声は、白浪泡を噛む滝壺の底。
巌々たる岩と岩との間、水晶の簾を懸けたような女滝を浴びつつ、今しも痩せたる一人の行者は、一念一心に右手の鈴を振りながら、禁慾鍛身の苦行三昧。
「おウい、新九郎さま――」
轟々と鳴る水音に、男は片手を口に蔽って再び呼ぶ。
はたと振鈴の音がやんだ。
「何じゃ、こんがら!」
「早く滝壺から上っておいでなせえ」
「鋒ヶ峰の山肩に、あの日輪が蔭る時刻までは、たとえ身が凍ろうとも上がらぬ心意じゃ」
「その毎日の行は、わっしも知っておりますが、今日は番外、一大事が湧いて来たんですから」
「なに、一大事と?」
「こんがらの重兵衛が、こう焦き立てるからにゃ、唯事じゃありませんぜ」
「ウム、ではとにかく、それへ参って聞くとしよう」
白衣の行者は、やおら滝壺を這い上がって、水を含んだ黒髪を絞って後ろへ束ね、袖から雫を垂らしながら、男の側に蹌めいて来た。
毎日、滝を浴びては陽に照らされ、密林に木剣を揮っては雨露にさらされているこの行者は、面もほとんど朽葉色に焦けて、肉は落ち骨は尖って、まったく見る影もない枯巌枯骨の姿である。