Japanische Klassiker mit Furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lesen Sie 剣難女難 (けんなんじょなん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 243.807 Zeichen · 482 Bildschirme
で、彼の枕元に近い所を、人なき白帆がゆるゆるとさかのぼって行くのも見えてきた。
「ム……ム、ム……」
爽やかな風に醒めたか新九郎は二、三度軽い呻きをもらして、やがて、パッチリと眼瞼を開き、幽界からこの世に返ったものの如く、しばらくあたりの朝を見廻していた。
「オ、今日こそはここから帰る日だ……」
醒めた途端に胸をかすめた新九郎は、いつもの心算でムックリと身を起したが、その弾みにくらくらと眼がまわって、顳を押さえたまま枕に額を乗せて俯伏してしまった。それが睡薬の名残と知らない新九郎は、眩暈をこらえてまた起き直り、ふと枕元を見ると、昨日、御方に持ち去られた筈の国俊の一刀が、いつの間にかちゃんと置いてあるではないか。
「おお、では今日こそ帰れという謎か」
新九郎はほッと安心してその一刀を膝の上へ取り寄せたが、彼はまたいぶかしそうに眉を顰めた。鍔、柄糸、鞘の長さ、それらは自分の愛刀と見違えるほど似ている刀だが、どこかに持ち心地の違うところがある。
「はてな? ……」
小首を傾げながら鯉口を切って抜き払った新九郎は、思わずアッと驚かされた。それは将軍家御用鍛冶の初代康継、まぎれもない葵紋が切ってあった。