Japanische Klassiker mit Furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme
しかし、この封書には、ちやんと居どころがしるしてある。――広島県宇品海岸通り。さて、それだけで番地もなければ、止宿先の名前もない。これで返事が届くかしらと思いながら封を切る。
ごあいさつもせずにおん地を去りましたことを申しわけなく存じます。なにから申しあげてよろしいやら、その後お宅さまでは皆さまお変りもいらつしやいませんか。ご主人はもうお役目がおすみになりましたかしら。一日も早くお家族おそろいで新しい団らんのご生活におはいり遊ばすことを祈つております。
わたくしは、教師の職をすて、まともな生活のあてもなく、放浪の旅に出ました。お話をすれば長くなりますけれども、これも止むにやまれぬ女心の、たゞひとすじの道をと思いつめた結果でございます。待つということほどなやみのますものはございません。近づけるものなら、ひと足でもこちらから近づいていきたいのです。道はいくら遠くても、いくらけわしくても、それは忍んで忍べないことはないと思いますの。音さたのまるでないものを、どうして待つ気になれましよう。それは待つことにはならず、見失うことです。とりにがすことです。たゞ、海のかなたに向つて、その名前を呼びつゞけるということだけで、わたくしのいのちは生きていられるような気がいたします。