Japanische Klassiker mit Furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme
木の葉の如く
一
一
紀州田辺の港は、いわゆる復員船の出入りで、この秋から珍しい混雑を呈していた。
いま一そうの大型船が沖に浮び、いく杯ものハシケで運ばれる「武器のない兵隊」の波がさん橋にあふれ、そのひとり/\の表情に祖国の土を踏む複雑な気持が読みとれる。めい/\が肩にめりこむほどの荷物は背負つているが、あたかも強いられた労役に服しているような足どりで、たゞ、前へ前へとのめり歩いていた。
行くあてのあるものは、そこからすぐに停車場に向つた。
行くあてのないものは、一時、町はずれの復員者相談所へ身をよせた。
出迎えとおぼしい男女の姿もちらほらさん橋の附近に見えはするが、いずれも確たるあてもないらしく、もしやというぐらいのあやふやな眼つきで、この人の波を遠くからながめていた。
ところで、ついさつきから、潮風にほつれ毛を巻きたて、片手にちようど卒塔婆のような白木の札をさし出して、さん橋の上を行きつもどりつしている一人の若い女が人目をひいた。
木の札には、――「旭一三六二四部隊杉部隊の浜島茂を御存じの方」と墨で書いてある。
十人のうち一人がそれを読むか読まぬか、おそらくは気ちがい女のもう執のすがたとして淡く見すごされるふうであつた。