Japanische Klassiker mit Furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme
七
ことが、あたくし、なによりも悲しいんですの」
七
しかし、康子はまだどこかにわり切れぬ気もちをのこしながら、夫が許すまゝに、その夜東京をはなれることにした。それがいゝかわるいか、もつとほかにとるべき方法があるかどうか、そういうことはほとんど考えなかつた。
新宿駅のホームで、もうかなり続いている行列に加わり、送つて来てくれた夫とぽつり/\立ち話をし、もうこれが夫の顔を見る最後かも知れぬ、いや、最後にきまつていると思うにつけて、自分がひとりいまこうして汽車に乗るということが、およそこの世の中にあり得べからざる不自然なことのように思えてくる。
夫は、時どき彼女のほうへ向きなおつて、まるでほんのちよつとの別れででもあるように、軽く道中の注意を与えたり、近ごろの人心のすさみかたについて感想をのべたり、していたが、ふと彼女のそでをつかんで二三歩引つ張つていき、やゝ改まつた口調でこう言つた――
「おれの決心については、お前だけが知つているわけだから、一切他言は無用だぞ。お母さんにはもちろん黙つていてくれ。騒ぎだすとやつかいだから……。それから、お前の一存でだれかれに相談をもちかけるとか、つまり、おれの行動を妨げるような処置をとることは厳禁する。