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Japanische Klassiker mit Furigana

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme

Aozora Bunko

九

でも、こうしてお別れしていて、その間になにもかも、変つてしまつたんですもの。ことに、あなたのご境遇は、あたくしなんか想像できないほど変つてしまつた、と申してよろしいと思いますわ……」

九

いつたん窓に近づいて、ガラス越しにぼんやり外に眼をやつたが、彼女は急にまた夫の肩先へ歩みより、

「ねえ、あなた、ご自分のことだけお考えになつてらしつちや、いやよ。もちろん、あたくしたちは、これから、世間せまく暮らしていかなければならないことはわかつていますわ。それにしても、決して希望がないわけじやないと思いますの」

「どんな希望がある?」

と、一徳は、妻の手を採りあてると同時に言つた。そして、いくらか笑いをふくんだ調子で、

「お前の希望というのは、おれにもまんざらわからんわけじやないが……そんな希望は、たゞ、人間が生きているために、生きざるを得ないがために、強いて頭のなかに描く幻影にすぎんさ」

「いゝえ、ちがいます。そんなもんじや……」

「待て、待て。おれは、おれ一人のことだけ考えてるわけじやないよ。それどころか、おれという一個人は物の数でもない、この日本という国のこと、おれが永年そのなかで育ち、そのために働き、その名誉を名誉として来た軍隊のこと、それから、最後に、家のこと、つまり、お前たちのこと……」