Japanische Klassiker mit Furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme
四
げんに、彼女は、この青年の情熱をもてあそぶ結果になることをおそれはじめていた。それにもかゝわらず、まだ、彼を身辺から遠ざける理由を見いだし得ないでいる。これは彼女の心理としては、矛盾とまではいかないが、あやふやな自問自答というようなかたちのものであつた。それゆえ、彼の出方に対して、いつも、警戒と名のつくほどの態度はみせたことがない。が、すくなくとも、まぎらわしい素振りだけはつゝしむようにしている。
「さあ……」という返事が、そのひとつの現れである。
四
なぜなら、「下伊那はなにもかも、ぜんたいがいゝ」などと言いきることは、その「ぜんたい」という意味を、今の場合、彼がどんなふうに受けとらぬとも限らぬからである。それは、そう問いかけた彼の声の調子、その眼つき、そしてさらに、彼女の返事を待つおぼろげなある期待のようなものゝなかに感じられる。
はたして、彼女の「さあ」というなま返事は、一瞬、彼をうろたえさせた。
「なにか、奥さんには気に入らんところがあるんだね。もう東京へ帰るなんて言いだすんじやないですか?」
「東京へ帰るつたつて、家がないんですもの」
「たゞそれだけの理由で、こゝにいるのかね?」