Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme

Aozora Bunko

三

「ほんとですか?」

「えゝ、ほんとですの」

「さあ、この町の医者にそんな景気のいいのはいませんよ」

「あら、景気と関係ございませんわ」

「だつて、そうでしよう、今どき万というもんでしよう?」

「先生は、それよりずつとお高いだれとかの絵を最近お求めになつたそうじやございませんか」

「はあ、春草ですか? そんなおしやべりをしたかなあ、ワハヽヽヽヽ」

池内氏は機げんよく笑つてから、心当りを当つてはみるが、若し見込がないようなら、知合の新聞社へそう言つて広告を出すからと言つた。

三

康子は、その言葉を耳に残して帰つて来たものゝ、いざ、けさの新聞にその広告が出ていると、郵便局で顔を合せたこれも疎開組の一婦人から聞かされてから、妙に憂うつにならないわけにいかなかつた。

ピヤノを売るのが人に知れて外聞が悪いというのではさら/\ない。たゞ、そのことから、自分が人々の話題にのぼり、こゝしばらく、好奇心の対象にされそうなのが、なんとしてもやりきれない。そんなことにはわりに無とん着な彼女も、狭い土地の単調な生活の空気のなかで、たゞ異様にどぎつく向けられる人々のまともな視線には、時々ぞつとするのである。