Japanische Klassiker mit Furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme
三
が、こうして市ノ瀬牧人を前において、彼女は、ほかになにもいうことはなかつた。信州の客に茶を絶やしてはならぬと聞いていたので、大きなきゆうすをもち出して来た。
「それじや、さつそくご相談にとりかゝりましようね。あなた、ご存じないわね。いま、北原先生がどうしてらつしやるか……」
「知りません」
「それが、困つたことになつたの。このまゝにしといたら、あの方、どうなるかわからないわ」
三
「どうしたんです、いつたい?」
と、市ノ瀬牧人は、この、だしぬけの話に、まだそれほど興がわかぬらしい。
「どうしたもこうしたもないのよ。ほら、婚約の方があつたでしよう? とう/\戦争裁判の判決があつたらしいの。それが、重労働二十年ですつて……」
「二十年!」
市ノ瀬牧人は、やつと真剣な顔になる。
「まあ、ちよつと考えてごらんなさい。二十年つていうと、子供が大人になるのよ。娘がお婆さんになるのよ」
「わかつてます。こたえるなあ」
「北原先生は、それまで、まあ/\、希望をもつてらしつたわけよ。死刑よりは軽いつていつたつて、どう、市ノ瀬さん、北原先生にとつて、どつちが辛いとお思いになる?」
彼は、返事ができなかつた。