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Japanische Klassiker mit Furigana

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme

Aozora Bunko

「毛布はいらないよ。この通り何枚でもある。顔を洗つてないだろう、洗面所もあるにはあるが……すぐ行くなら、一緒に来い」

康子は、洗面道具をとり出して夫の後について行つた。兵営とも違い、学校の寮ともちがう、一種特別なお役所のにおいが、強く彼女には感じられた。

部屋に帰ると、附近の仕出し屋から運ぶらしい朝食がちやんと二人前、事務テーブルの上に並べてあるのを、康子は珍しいものをのぞくようにしてはしをとつた。なにはともあれ、こんな殺風景な食事を三度々々甘んじてとり、先ざきの楽しみもなく、一切をかけた光栄のしるしをはがれ、しかもなおこうして「何事か」に励んでいる夫のいた/\しい姿を見るに忍びなかつた。なにかひと言、いま、妻としての想いをこめた言葉で、この夫を慰め、鼓舞したかつた。が、その言葉がどうしても口に出ない。

「もう食わんのか?」

と、はしをおいた康子をみて、一徳はたずねる。

「えゝ、どうしてものどを通りませんの」

「そんなにまずいか、この雑炊は?」

「いゝえ、それより、きよう、どんなお話を伺うのかと思うと、あたくし、食事どころじやございませんの。早くおつしやつていたゞけないかしら?」