Japanische Klassiker mit Furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lesen Sie 剣難女難 (けんなんじょなん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 243.807 Zeichen · 482 Bildschirme
ただ、この人に一点難を探せば、左の眦やや下がった所に、白魚の瞳ほどな黒子がポッチリとあること――ともう一ツ、いぶかしいのは、緑の黒髪、何の故あってか、ポッツリ切って、冷やかなお下げにしていることである。
「御方さま。お冷えにおなり遊ばすといけませぬ」
侍女たちが、声をそろえて、ややしばらくの恍惚を醒ますと、御方は振り顧ってニッコリ笑みこぼれる。
「そなたたちも冷たかろうに――もう上がりましょう、誰か妾の手をとッてたもる者はないか」
「さアみんなして……」
腰元たちは、半ば興がッて手を伸ばしたが、その時、何に押されたのか、御方の船がどんと揺れて水を見た多くの者が、
「きゃッ」
と叫んだまま、桟橋の上に散らばった。侍と老女は、何事かと、びっくりして、舷を覗いた。
「や、水死人」
「忌わしい、御方様のお目に触れぬうち、早く、早く」
「突き流すのでござるか」
「お問い遊ばすまでもないこと……」
老女は顔を扇子に隠して、苦々しくこう云うと、侍は艫の船子に、同じような口調で、はやく突き流してしまえといいつけた。
水死人、その声だけで、誰しも眼を反らし、よく見もしない中に、御方と呼ばれる女性だけはじっと舷のかげに漂っている無気味なものをみつめていた。