Japanische Klassiker mit Furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lesen Sie 剣難女難 (けんなんじょなん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 243.807 Zeichen · 482 Bildschirme
「きッと。きッとお前様は、この寮を逃げて行きたくないと云い切りますかえ?」
御方の声も真剣である。新九郎は返辞に詰まるばかりでなく、眼の前の絢爛と、伽羅とも何ともつかぬ強い香りで息苦しくなった。
「お前様が、ほんとうにこの寮に長くいてくれる心算なら、五人扶持、十人扶持も取らせましょう。いえ、もッと贅沢三昧にもさせてあげましょうぞえ。この間から、それとなく事よせて云うた妾の心もここまで云うたらおよそ分りそうなもの……」
「な、成りませぬ!」
新九郎はほッとした息で云った。
「え、ならぬとえ?」
「それの成らぬ新九郎の身の上でござります」
「な、なぜじゃ」
御方は吾にもあらせぬ焦き方で、新九郎の手をとって熱にふるえる。それをまた一方では、世にも怖ろしいものに掴まれたように、腕を縮めるのだった。
「ならぬという訳を聞かしてたもれ。さ、それ聞かいでは、妾の心がしずまりませぬ」
「この上は、かくすほどのことでもござりませぬゆえ、拙者の身の上をお打ち明け申します。その釈明が立ちましたからには、何卒、勝手でもお別れ願いとうござる」
新九郎は先にこれだけの念を押しておいてから、かいつまんで、大望ある事情を話したのである。