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Japanische Klassiker mit Furigana

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme

Aozora Bunko

「でも、こちらのご都合は? 一日二日、どつちになつてもかまいませんのよ。おひきなれになつた楽器を、手許からおはなしになるのは、ほんとにお辛うございましよう?」

などと、ませたことを言い、それにもいや味なところはなく、康子も、引き込まれるように、ついほろりとしてしまつた。

しかし、品物の取引がこういう風に行われることは稀であろう、という意見が、あとで、内々のものゝ間で語られた。それはそうに違いないけれども、康子にしてみれば、それが一層思いきりをわるくさせはせぬかと思われた。

はたして、約束の日が近づくにつれて、康子は感傷的になつた。居ても立つてもいられぬようないらだたしさがつのり、息子のモトムがなにか耳元で言つても、それが耳へはいらぬことすらあつた。昼間のうちはそれほどでもないけれど、夜になると、殊に真夜中、ふと眼がさめて、いきなりキーをかき鳴らしたい衝動におそわれる。そういう時、不思議なことに、夫の顔がうつゝながらに浮んで、その眼が自分に何か言つているように思う。耳をすます。もちろんなにも聞えない。が、夫は無表情に口を動かしていることもあり、みけんに険しいしわをよせて、なにやら叫んでいるようなこともある。