Japanische Klassiker mit Furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme
「ピヤノをね。明日わきへ持つてまいりますことになりましたので、当分これがひきおさめだなんて申しましてね。まあ、思いのこりのないようにつて、わたくしも、先生、我慢してきいておりますんですよ」
北原ミユキは耳のそばでさゝやく老夫人の言葉にうわの空で、なんべんもうなずきながら、全身全霊をうちこむとはこのことかと思われる井出夫人の感情をこめた演奏ぶりに魂を奪われていた。
その時、また母屋に通ずる廊下を忍び足で歩く足音がした。その足音は一たん奥へ引込み、またもう一人の足音と重つて、二人の男が障子の外に近づく気配がした。百々子が起つて行つたけれども、二人の男は廊下にたゝずんだまゝ動こうとしない。
当家の次男池内和昌と、例の市ノ瀬牧人である。
一曲は終つた。
それをしおに、二人の若者が、首を縮めてはいつて来る。
康子は後ろを振りむいて、顔を赤くし、
「おや、おや、大変なことになつたわ」
「なんていう曲、今のは?」
北原ミユキがたずねると、
百々子が、ショパンのワルツだと教える。
「そう、そう、そういえばそうだわ。わたしやなんど聞いても、名前を忘れるの」
と、国民学校の訓導は、モトムの方へちよつと照れた笑顔を向ける。