Japanische Klassiker mit Furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme
すると、彼は、いきなり、そこへ立ち止つた。彼女が、思わず歩をゆるめて、ふりかえると、
「いゝかい? ぼくはきようは思いきつて言うがね、君は、かつての婚約者たる詩人浜島なにがしを愛しているという。おそらく、今までの君は、そうだつたろう。だが、今の君は、もうちがう。君はぐつと成長した。君は、その恋人を、それ自体としてもう愛してはいないのだ。ぼくは保証する。君が今もなお愛していると思つているのは、たゞ、浜島なにがしの相ぼうを借りた、一個のより複雑な男性像なんだ。眼をつぶつて思いだしてみたまえ。君がかつて愛した浜島なにがしは、断じて、君がいま眼の前に浮かべている幻影の主ではない。君が、現に追い求めている恋愛の対象は、マレイのろう獄につながれている一戦犯とは似てもつかぬ、あらゆる可能性を身につけた男の巨大な影さ」
彼女は、それを聞くともなく聞いていたが、ぷいと顔をそむけて、また歩きだした。
こうして、二人がアトリエへ帰つてみると、江原久作はまだ仕上げには間のある立像の前で、しきりに首をひねり、あちこちをなでまわしている。寝いすの上へ、毛布をかぶつて寝ころんでいる二人の男のいびきが耳につくだけである。