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Japanische Klassiker mit Furigana

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme

Aozora Bunko

と思うと、それは、たちまちどこかへ消えて、あとには、以前よりもうつろな視線が宙をみつめている。心もからだも暗やみに落ちこんでいくような気持をもうくいとめるなんの力もない。はては、自暴自棄的な精神の発作とも思われる興奮から、すべての光明に向つてちよう笑を投げる。これまであれほど大切なものとしていた女のほこりが、他愛もない子供だましになる。「健康な」という言葉ほど愚かしいものはなくなる。そして、自分で自分にこう言う――

「そうとも……あたしは有閑婦人でも不良マダムでもいゝのよ。どうせその日のご飯にありつくために、なんかかんかするんじやないの。もつたいぶつたつておんなじだわ。職業戦線なんて、聞くだけでもぞつとするわ。女がせい伸びをして、人並にお金をとろうつていうのが今の流行なら、あたしは、どんなに流行おくれだつてかまわないわ。働かざるもの食うべからず。はい/\、食べなくつてもよろしゆうございます。そのかわり、働くひとをほんとにおなかいつぱい食べさせてあげてくださいね」

彼女のほおには、いつのまにか涙が伝わつている。きのう、すぐ近所の路地の奥で、新聞配達の少年が空腹のために倒れていた、あの光景を想いだしたのである。