Japanische Klassiker mit Furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme
汽笛の音がどこかで底鳴りのように聞えるのだけれども、海の方向さえ、もう見当がつかぬ。もし風がとき/″\吹かなければ、足もとの道も見えないくらいであつた。
康子はいつまでも、こうしてはいられぬと思い、一歩、一歩、用意深く前へ進んだ。ときたま風向きによつて、眼の前にぱッと視界がひらける瞬間がある。彼女はすかさず足をはやめ、ほつとひと息つくのである。が、こういうことを繰りかえしているうちに、疲れは刻々に重なつて、からだが言うことをきかなくなる。
親子はついに、折り重つて、砂地の斜面の上に倒れてしまう……。
どれくらい時間がたつたか、康子は、ふと眼をさます。モトムは彼女の腕のなかですや/\眠つている。手足は冷えきつて無感覚になつているのだけれども、背中には日光の直射が感じられる。霧はもうなかばはれていた。
顔をしずかにあげると、海がすぐ眼の前に見える。波打ちぎわの白い線が遠く続いているかなたの空に、あざやかなにじがうかんでいる。
そのにじのほのおの下に、まださめきらぬ彼女の夢の名残りのように、ひとならびのバラックの屋根が、ぼんやりかすんで見えた。