Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme

Aozora Bunko

七

こんな会話をつゞけているうちに、松川の流れがもう天竜にそゝごうという河口の砂浜にさしかかつた。そこから小みちが左右に分れて、一方はI市の南側をまわつてE村に、一方は広い堤防の上に出てM村の八幡という小駅に通じていた。

北原ミユキはその駅から電車に乗るつもりであつた。が、市ノ瀬牧人は、もうこゝからは道もいいし、自転車の後へ乗せていつてやると言う。どうしたものかと迷つた末、

「あなたさえよければ……」

と、彼女は市ノ瀬牧人の背につかまつた。

「なあ、市ノ瀬さん、あのひとの作つた詩、どれか覚えておいでる、ぼんやりでもなんでも……」

彼女は、なにを思つたか、こう問いかける。

「さあ、そいつは困つた。ひとつも覚えとらん」

「一行も……? 一句も?」

「待つてくれ、思いだすから……」

「ふゝゝ、わたしのこと歌つた詩があるんだに……」

七

――わたしのこと歌つた詩があるんだに、と、北原ミユキは、首をちゞめるかつこうで、市ノ瀬牧人の肩ごしにやつたのはいゝが、うふゝゝと、こみあげる笑いをとめようとして、手に力がはいる。

「そりやそうだろう。詩人が恋愛を歌うのはあたり前だ。おい、笑つちやあぶないよ」