Japanische Klassiker mit Furigana
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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Lesen Sie 火の扉 (ひのとびら) von 岸田 国士 (きしだくにお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 129.467 Zeichen · 257 Bildschirme
四
どこへ行くのかとたずねると、面倒だからいち/\行先を聞くなとつッぱねられる。
が、それにしても、彼女は、夫の毎日の行動や顔色から、まだそれほど切迫したものを感じてはいない。で、なにか、もうひと息という気がした。
それは、かんたんに言えば、ふと気が変るというような、たゞ生命への執着が微妙な一線をこえて彼の精神をとりこにすればいゝのである。そう考えてくると、彼女にしてみれば、自分というものゝ存在が、それほどそのことには役に立たぬのかと、ある夜、つい、いらだたしく綿々と夫の愛撫にいどみかゝつた……。
四
夜は更けていたけれども、もういく時ごろかわからなかつた。
夫が何か耳もとでさゝやいている。彼女はそれを夢うつゝで聞いている。
「ねえ、康子、いつかの返事をしてくれよ。おれがいま死んだら、お前はどうする?」
ギクリとはしたが、彼女は、夫の胸にぐつと寄りそうかたちで、かすかに答えた。
「まだそんなこと考えてらつしやるの? あたくし、もうすつかり忘れてましたのに……」
「いや、たゞ聞いておくだけだよ」
しかし、夫の腕が彼女をしめつけるその力で、彼女は、なんと答えれば彼が満足するかを直感した。