Japanische Klassiker mit Furigana
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けんなんじょなん
剣難女難
吉川 英治
Lesen Sie 剣難女難 (けんなんじょなん) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 243.807 Zeichen · 482 Bildschirme
にもかかわらず、鐘巻自斎という名を聞くと身が竦むほど怖ろしい。自斎の風貌を思うだに総毛立つ心地がする。ましてや彼の剣前に立って、勝ちを制することなどは、新九郎に取って死より難く死より恐怖なのであった。
夜来の疲れが出たのか、酒に性根を現してきたのか、彼はやがて袖部屋の隅にゴロリと身を横たえて、雷のような鼾と共に手枕の夢心地よげに寝込んでしまった。
忠房から、夜半にこの屋敷を落すようにいいつけられていた重蔵も千浪も無論彼を起しには来なかった。で新九郎は、身動きもせず夜明けまで寝込んでいたが、やがてムックリ起き上がると、庭へ出て泉水に嗽い手水を使い、すぐむこうの数寄屋の一室へ入って、心静かに切腹の身仕度をした。
と――暁方の仄明りを密やかに忍び寄って来た何者かが、縁の隅から様子を窺って、
「新九郎様……新九郎様……」
と二声ほど呼んだ。
「お……、千浪殿か」
彼は、それが女の声なのを知ってこう言った。千浪が来てくれたなら幸いである。彼女も決して自分の最期を止めはしまい。松平家の存亡の為、また忠房の信頼を裏切っている謝罪だけでも今新九郎の死すべきわけは充分にある。