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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
ひとの来る部屋にそういうものをおくと不便ですし。二階はすこしゆとりをつけたいのです、ベッドを四畳半へおろして。只ここはおとなりの台所にくっついていて、すこしやかましいのが欠点だけれど。そして、ひる間一寸休むにこまるわ、いろいろ思案中です。きょうから玄関にはり紙をして、午後でなければお客おことわりにしました。藤村はいやな男ですが、「夜明け前」を七年かかって飯倉でかきましたものね。あのときは一切人に会わずで。私たちにそれは出来ないが、しかし、粘るところは、ざらにない力です。そういうところのよさは学ばなければ。蓼科へ行って秋声の伝記かくのだそうですが、『文学の思考』の序文が与える感想とそのこととをてらし合わせ、私はああはしまいという思い切です。勉強勉強と思うのよ。うちにねばって、休むこともうまくやることを学んで、勉強勉強と思います。原っぱへ行って休んで来て、それでいいと思うのよ。美しい詩集からいつも新鮮にされるよろこびを与えられながら。
そういうようなわけですから、どうぞ私の殊勝な志をめでて詩集についての物語も折々おかき下さい。
でも、今ふっと考えて奇妙なことと不思議に思いますけれど、あの詩集の中に冬のつめたさはつめたさとして一つもうたわれていないの、面白いことね。