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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

そう云えば、鳥取の手紙すっかりおそくなって。

「寺田寅彦理博の随筆物等おもちではございませんでしょうか。又文筆家の最近の支那紀行と云った様な書物も父は読みたく思っているのですが。それからこれは一寸方面ちがいのお願いかもしれませんが、父はでてから少し随筆物をかくつもりの由にて、その資料の一つとして動物の習性のことをなるべく詳しく記した手頃の動物辞典が一冊ほしく、只今父が文通しています二人の医博に先般しらべて頂いたのですけれど、医家も全然動物学とは関係ないらしく、父の満足する結果を得ないで居ります」云々。

鳥取県東伯郡下北條村字田井  逸子

右のようです。私から簡単に、ふさわしい本がないので残念ながらお役に立ちかねる由返事してもよいと思って居ります。その方が却ってよさそうね。いつか云っていらしたようなことを答えられても手紙の書きぶりから推してそれを客観的に理解する力はないでしょう。ああ云った、こう云った、それがどうで、ときっと在る光景考えると、やっぱり面倒です。ですから、私からいろいろふれず辞典のないことだけ返事いたしましょう。その方が単純らしいから。