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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
私は声に出して云うの、「ああ、しっかりつかまえて頂戴、しっかりおさえて頂戴」と。稲妻がはためいている。こういう夜も私たちの一生のうちにあるのかと、そう思って雨のふきつける音をきいています。
憤りの感情について考えます。怒りは素朴なところがありますね。或意味ではよろこびに転じる一番近い感情とも云える、それは手答えのある感情の動きですから。対手を対手として見る上での感情ですから。
悲しさという感情について考えます。これもそこには涙の溢れる余地があって、涙の中にある和らぎが予想されます。
この絶望ではない沮喪の感覚は何と表現したらいいのでしょうね。
静かな深い深い惨酷は何と音もなく、而も思いかえす余地もなく惨酷でしょう。
今年の初めに、初めて同じような沮喪の感覚を学びました、その折のことはちっとも話しませんでしたね。それはこんな会話なの。「××ちゃん、あれがかえって心変りしたとき困るから余り世話にならんことで。こっちから世話にならんことで。」
笑って床に入ったけれども、非常に思いがけない言葉でしたから、その言葉は耳の中から消えないのよ。夜が明るくなる迄おきていました。