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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

ヘッセのことをかきましょう、随分よまれているから。ヘッセのうちにある正しいものと、ロマンティシズムにぼやかされているものとの区別、大体ロマンティシズムとはどういうものか、そんなこと。今は妙な時代でね、日本はロマンティック時代というところがありますから。壮語的ロマンティシズムと極めて低俗な万歳的地口とが、日常の感覚のなかでよりわけられずにまざっています。大した大人たちがその見本を示しているから。

小説は、書き直しといってもそれには其だけの愛着があってのことですから、決して片々的片手間仕事にはしません。それに、この前の手紙で云っていたようにいろいろと考えていることがあるのですし。

机の上にペラゲアの赤い花が二輪さしてあって、青い大きい生々とした葉っぱとともにいかにも鮮やかな色です。原稿紙の厚いかさなりの上にやきものの山羊がのっていて、その文鎮にあなたのお手紙よせかけて眺めてかいているのですけれど、私は、この手紙ひらいたときから、きのうから、幾度も幾度も、行為の動機は思慮深く、とかかれているところをくりかえしています。

まざまざとそのときの苦痛が甦ります。