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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

――声も、調子もいい。

女には珍しく、声も調子もこの浄瑠璃にまん向きだと、隠居はすっかり惚れこみ、本式に教えるから女師匠になれ、と云いだした。

お豊は信じなかった。

――うまくまるめて、あたしを妾にでもするつもりなのよ。

そう云って稽古所へもゆかなくなった。

「お豊さんのねえさんは、すっかりぐれちゃったからね」と、幸助はおとなびた口ぶりで云った、「女師匠だなんて、固っ苦しいことをするよりも、あんなふうに客を取って、みんなに奢ったり小遣いをやったりして、いばっているほうがよかったんだよ」

「みんなというのは、あの三平という男もか」

「本野さんていう、御家人くずれもいたし、てっぽう安っていう、いつか平手さんが亀戸でやっつけた、あにきとかさ」

深喜は「支度をしよう」と云って立ちあがった。

「来てくれるんだね、平手さん」

「幸坊の顔をつぶしては、悪かろう」と、深喜は云った。

外出の許しを得て、二人はまもなく道場を出た。晩秋の日は昏れるのが早く、街には、もう灯がつきはじめていた。駕籠でゆこうと思ったが、自分だけということにはいかないし、二梃雇うには銭が惜しかった。