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はなもかたなも

花も刀も

山本 周五郎

「税のしるべ」大蔵財務協会、1955(昭和30)年1月~7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 89,364 字 · 178 页

青空文庫

へゆけば、秋田平八に会えるだろう。彼に預かってもらった荷物もある。荷物といっても四五枚の着替えと、書物が二十冊ばかりだが――秋田は怒っているだろうな。あんなに云ってくれたのに、おれは『山源』を覗きもしなかった、と幹太郎は思った。

そのとき一人の子供が、この路地の中へはいって来た。

年は七つくらいだろう。襤褸というより布切を集めて体へ縛りつけたような、おそろしくみじめな恰好をしている。この寒さにはだしで、それでも頭には破れた油紙をかぶっていた。

子供は幹太郎を見てぎょっとし、逃げ腰になりながら、狡猾そうな眼ですばやく彼を観察した。

「なんだ、坊や」と、幹太郎が云った。すると、その声で安心したように、子供が近よりながら云った。

「おじさん、雨宿りか」

「うん、まあそうだ」

「むだだぜ」と、子供が云った。

「この雨はやみアしねえ、待ってたってやむ雨じゃありアしねえ、雪になるぜ」

「そうらしいな」

「わかっているのかい」

「そうらしいと云ったんだ」

「ふん、――」

子供は幹太郎のようすを無遠慮に眺めた。ひどくませた、そんな年ごろの子供には似あわない眼つきだった。

「おじさん寒そうだな」