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かせいへいだん

火星兵団

海野 十三

「大毎小学生新聞」大阪毎日新聞社、1939(昭和14)年9月24日~1940(昭和15)年12月31日、「東日本小学生新聞」東京日日新聞社、1939(昭和14)年9月24日~1940(昭和15)年12月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 307,889 字 · 618 页

青空文庫

なんとなくうまそうでいて、そしてむかむかするにおいだ。

におったことのない妙なにおい!

それも道理であった。これこそ、火星の生物の汗のにおいであったのだ。火星の生物の汗のにおいが、その部屋一ぱいに、みちていたのである。

はじめ千二は、ちょっといいにおいだと思ったけれど、間もなく胸がむかむかしてきた。それほどいやらしいにおいであった。

そのとき、ぎーぃと音がして、誰かが近づいた気配である。

千二は、ぱっと眼をひらいた。それまで千二は、正気にかえったとはいうものの、ぐったりして眼をつぶって、ただ鼻ににおいだけを感じていたのだった。

「おい君、いま元気にしてやるぜ」

うす桃色の湯気の中から、とつぜん、この言葉が聞えたのである。

「えっ」

千二少年は、その方を見た。

湯気は、もうもうと渦を巻いていた。その向こうに、何者か立っている。ぼんやりと、頭のかっこうのようなまるいものが見えた。

「だ、誰?」

千二は、まるい頭のようなものに、声をかけた。

「誰でもない。おれだよ」

湯気の中から、ぬっと姿をあらわした者があった。

頭には、つばの広い、黒い中折帽子をかぶり、そうして同じ黒い色の長い外套を、引きずるように着た大男であった。