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かせいへいだん

火星兵団

海野 十三

「大毎小学生新聞」大阪毎日新聞社、1939(昭和14)年9月24日~1940(昭和15)年12月31日、「東日本小学生新聞」東京日日新聞社、1939(昭和14)年9月24日~1940(昭和15)年12月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 307,889 字 · 618 页

青空文庫

しかし、その放送を聞いている者は、ほとんどなかった。どこの天文台でも台員は放送するばかりで、他人の放送を聞こうともしなかったし、また人手が足りないため聞いているひまもなかった。かえって、天文学者でもない素人の方が熱心に聞いていたのであった。その素人も、さっき言ったように、そのほとんど全部が気の毒なおかしくなった人であったわけだが……。

「矢ヶ島天文台発表」

ぼそぼそした声で放送している者があった。

「矢ヶ島天文台? 聞いたことのない天文台だなあ」

この放送を聞いていた病人が、にやり、気味の悪い笑いをうかべた。

「わが天文台は、一昨日から月に関する天文放送を始めていますから、今日以後の放送を、よく御注意下さい」

「なんじゃ、この放送者は、どうも頭がおかしいぞ。気がへんになったのじゃないかな」

と、放送を聞いている病人が言った。モロー彗星のことで、世界は、ひっくりかえるような騒ぎをやっているのに、ひとり矢ヶ島天文台からは、月に関する観測を放送すると言うのであるから……。

だが、月の南中の早い遅いは、果してばかばかしいことであろうか。

矢ヶ島天文台では、それについて、こんなことを放送した。