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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
スタンドが灯り、薄紅の蝶のような蘭の花が飾られている机の上で、山羊のやきものの文鎮に開いた手紙をもたせかけ、僕は明日にはじめて芳しい詩集をひらいて、という句を、じっとよんでいる、この句の調子が、何という音楽を想いおこさせることでしょう。私は泣かないでいることが出来ません、でもそれは私がわるいのではないのよ、余り詩が美しいのがわるいのよ、美しさに感動しそれを忘れることの出来ない人間の心が、わるいのならわるいのよ。
さて、人造バタは、のりのようということについて。全く困ったことです。どこでも手に入れにくくなりました。四月一日からタクシーが価上りになりましょうし、バスもやがて今までの三区を二区にするでしょう。汽車賃は四捨五入でなくて、二捨三入で、銅貨なしのかんじょうになりました。玉子は十ヶ八十銭のわり。そちらのパンはいかがですか。この頃東京パンの食パンもとかく品切れです。いろいろの菓子類全く減りました。小豆が一升七十銭の由、どうしてアンコがつくれるのかと思います。だからきのうも笑って、果物だけはマーガリンも屑豆も入っていまいしサッカリンもないから、これからおやつは果物にしようと云ったようなわけです。