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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
門の上に、ほら昔の東京名所図絵の版画なんかにランプの入る角形の街燈が、鉄の腕で門の上についている風景がありましょう? あのとおり昔ながらの角燈がついていて、そのあたりには医者らしい広告の棒もなければ、電柱の広告もしてないの。医院ともかいてないの。普通の標札だけ出してあって、日よけの簾の二三枚たれたしもたやづくりの二階屋です。往来から見えるところに狭い待合所があって、母につれられた女の子が横になっているのが見えます。きっと病人をあずかるときは普通の二階の部屋をつかうのでしょうね、こういうところは。老いたる武士の帷子姿という感じがその家に漂っています。
その前をとおりぬけるとすぐ三田のケイオーの正門の通りへ出たので、おやおやというわけです、丸善がついそこで。
人の感情が年を重ねるにつれていろいろに傾く地理的な環境というようなものをも面白く感じました。一方の丘の上は自家用車が走っているようなところ。そのこっち側は、ああいう小さい庶民の営みが充ちていて、そこで、一種の気骨が聖医というものにしてゆくのがまざまざとわかるようでした。勿論人によって逆になるのだが。