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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
07 一九四〇年(昭和十五年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页
朝も夜も滾々とあふれています。ふと、その泉のおもてに緑こまやかな枝の影がさしました。泉はいつかその枝の端々までをしめらした自分が露であったことを思いだし、しかし今映っているその枝が影であるとは知らないの。泉にはどこまでも現に感じられて、その小枝を湧きでる泉のなかにその底へとらえようと、いよいよ水をふきあげ虹たつばかりにふき上げます。ふき上げられた水のきらめきは、枝の影のうえにおちて自身のあまった力できつく渦巻き、ふちを溢れて日光の裡に散るばかりです。緑の小枝、緑の小枝、どんな季節の一日に、泉の面にその枝さきをひたすだろうか。枝のさきからしみわたる水の心地よさ。葉末葉末につたわって、すこやかな幹を顫慄させる泉の深い感応。
おのれの影に湧き立つ泉のメロディーは、いつしか緑の枝にもつたわって、枝はおのずから一ひらの葉、二ひらの葉を泉の上におとします。枝がおとすのか、葉がおのずから舞いおりるのか。水も燃えるということがある。泉のしぶきは焔のようにその葉をまきこみ、きつくきつくと渦に吸い込んで、微妙なその水底へ横たえます。しかも緑の梢は遠くというあたり、いじらしい自然の風趣に満ち満ちて居ります。