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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

写真の話ね。よく御存知のとおり、わたしは横向きではないこのみでしょう? はすかいがすきでもないわ。

いつか足が痛そうに一寸ねじれて、と云っていらしたあの写真が、このお手紙のなかで又とりあげられているのをくりかえしよみます。真正面に向った姿は、云わばどんな豊富さにも力にももちこたえてゆく姿です。お母さんのかげに避難したというところ、本当にそんな風にも見えることね。でもああいう場合、私の心には自然と絶えず描かれている姿があるのでね。あすこに坐った刹那、私は自分のとなりが空気ばかりであるのを感じて胸しめつけられる思いでした。私はあのときそっと耳を傾けて、自然の耳にだけ聴える凜々しくいかにもすきな身ごなしにつれておこる衣ずれの音に、心をとられていたようなところだったと思います。私はあすこにいる、そしていない。何かそんな感じ。その内面の状態と、まるで古風なマグネシュームもち出されて大恐慌を来したのと両方でああなのね。面白い写真。今夜はどこも真暗です。でもこれは出して来ます。又ね。

[自注4]この数日に経験した心持は、何かおそらく一生忘られないところがあると思います――公判のため無理な出廷をして喀血して以来、顕治の健康はずっとよくなかった。