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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

の美の古さ、新しさ、そこにある矛盾は彼女に向って分析してやれなかったでしょう。勿論一葉にはその力がなかったわけね。半井桃水とのいきさつも、何故あれほどの女のひとがあのひとにと云われているけれど、一つにはあの中島歌子の塾の貴族性にいつも反撥し、とけこめずにいる一葉の庶民的なものへ引かれる心もあったのでしょう。安心して貧乏ばなしが出来るのもよかったのでしょう。十五から二十五までの十年は、どんな女でも、男でも、何と圧縮された多くの経験を重ねるでしょう。この年の間にどう生きたかということで、その人の一生がきまるようね。今度一葉をかいて、しみじみと感じました。この時代に何かどっかどうかでないものが、後年何かであるということは決してないように思えて、面白いやらこわいやらです。

きょうは、三十年から四十年までの間をすこし、かき直したくて。その下ごしらえ。

きのう『明日への精神』の出版届けかきました。やっと出るのでしょう。あの黄楊の印、覚えていらして? 出来たとき手紙に捺してあげたの、覚えていらして? あの字。あれを捺すのよ、どれにもこれにも。黄楊は丈夫な木で、かけないそうです。