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ごくちゅうへのてがみ

獄中への手紙

宮本 百合子

07 一九四〇年(昭和十五年)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,044 字 · 575 页

青空文庫

丁度忙しい最中、家じゅうごたごたしていたので、私は疲れました。きょうは風が吹くけれど静かで、お客もなくて、ずっと机にいて一つ仕事終って、これをかいて居ります。又今夜も早くねて、あしたの朝なるたけ早くから校正をやってしまって、そちらへ行って、かえりに小川町の高山へ届けましょう。

校正そこで待ったりしているとき出来るように一つ万年筆をかいました。3.50 也。アテナ。丸善。金ペンはありませんですからパラテナというのでペンが出来て居ります。「それで書くとこんな字になるのよ、ザラつきます。ちがうでしょう」でも校正は紙がザラですから、どうせいいの。

多賀ちゃんのかえるついでに島田と河村と野原とみんなおせいぼをわたしてしまいましたから大安心です。丁度『明日への精神』の増刷の分が来たので大助り。歌舞伎を見せ、水谷八重子というものを初めて見物いたしました。新派というものの講談社性はどこかもうああいうひとの身にしみついているのね。八重子は情熱のとぼしい女優ですね、ひどく心情のひろがりの乏しいひとです。つまらない女優であると思いました。松井スマ子は子供のときみたぎりですが、目にのこっている生活力がありましたが。